第2話
月面出発50日目のこの日も、亜光速航法に問題はなく、EV0045型はやぎ座宙域へ向け順調に航行していた。
全長5キロのEVを動かすにしては、通常のエントリープラグは通常のEVと変わりなく、その内部でLCLに浮かび、プラグスーツを着ているカガは定時連絡をネルフ本部へ発進した。
地球から返信があるわけではない。ただ任務遂行中は毎日、定期連絡を義務付けられていた。
カガはアジア圏出身の少年の姿をしている。髪の毛は黒く、瞳も黒い。だが年齢はすでに80歳を過ぎていた。
まだ彼が十代の頃、EV搭乗者に憧れネルフの選抜試験に応募した。彼が少年だった頃、すでに地球に国家はなく、赤い大地と海の中、国連が世界の人々を管理していた。しかし1つの組織が管理できるほど地球人類の人口はすくなくなく、アジアの草原で産まれた彼は、両親もなくスラム街で幼少期を過ごし、盗みを働いて生活していた。
だから逃げ出したかった。貧乏から。
ネルフは搭乗者選抜を無料で行う。世界中、十代の男女を公募していたのだ。
カガのように貧乏から脱したい者もいれば、親に無理やりネルフへ送り込まれてくる子供もいた。境遇は様々だがEVの搭乗者はシンクロ率さえ高ければ、器の魂になれる。
カガも特別になりたかった。とにかく特別に。
そして特別になった。こうしてLCLに身体を預けながら、後ろに過ぎていく宇宙空間を見ながら、彼は特別になった実感を、毎日、身体で感じていた。
僕はこれでいい、これが僕の特別。僕は居場所はここなんだ。
と、心の中でカガはつぶやいた。
その時、全面スクリーンに無数の警報ランプが現れ、プラグの中が真っ赤な警告の色に染まった。ホロスクリーンが現出し、警報がなんであるのかをEVに内蔵された第10世代型カスペリオールが分析する。
《分析結果:パターン青》
これを見た瞬間、カガの眼は見開かれた。
使徒。そんな馬鹿な。使徒が最後に現れたのは2015年だけのはず。それから人類は使徒を確認していない。
それが亜光速航行中のこんな人類生存領域を離れた宇宙空間で、反応するなど。
カガは訝しく思いながら、ホロスクリーンに指先を触れ、さらなる分析を進めた。
第3話へ続く
0 件のコメント:
コメントを投稿