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ブリーフィングルームには、各界のプロフェッショナルが集められていた。やぎ座探索にそれだけ国連は力を入れていたのである。
LCLからでたばかりの面々の顔は、まだ目覚めたばかりといった風で、頭が回ってるとは思えなかった。
円卓の一番奥に腰掛けていたジェームズ司令官が立ち上がり、円卓の中央に現れた永存を見ながら話し始めた。
「ここはアダムが知性体を反映させた惑星だと思われる。現に使徒と思われる巨大生物が大量に確認されている。そこで、現地に着陸して、調査を行いたいと思っている」
これにはまだ回らない頭でも、危険なのはすぐにわかった。全員がそれぞれに講義の声を上げる。
司令官にはそれも想定していた反応であった。
「なにも諸君たちをいきなり使徒のど真ん中へ放りこもうと言うのではない。先なカガ君に調査してもらいたいと思っている」
司令官の後ろに立つ、あどけなさの残る少年に視線が一斉に向いた。EVの恩恵を受け、人より優れた能力と不老の肉体を持っているとはいえ、不死身ではない。パイロットを失う危険性があった。
「綾波シリーズを降下させるのはだめなのか」
地質学者のベリー・リッツァが、ドイツ人らしい鋭い視線を司令官に向ける。
「残念ながら綾波シリーズでは、いざというときに対応ができない。そこまで育成できている綾波レイはいないんだよ」
司令官が言うと、続けざまにカガが小さな声で話を自分のことに持っていった。
「いざとなればEVシリーズを遠隔操作して逃げることもできます。皆さんを宇宙の彼方に放り出しはしません」
と、冗談のつもりで行ったのだが、笑っていない顔に、ますます科学者たちは不安げになるのだった。
それからは数時間のブリーフィングが続き、結局、最初の案が採用されることになり、カガは格納庫のコード4Bに挿入されるエントリープラグの中で、シンクロ率の調整をしていた。
「もしもし、聞こえるかい」
そこへ女性の潰れたような声が聞こえてきた。ミコ・サトウの声である。
「通信状態は良好です。どうかしましたか?」
無機質なカガの様子はいつもと変わらず、これから使徒が溢れた惑星へ降下する人の心理とは到底思えなかった。
「あんたには緊張ってもんがないのか。まあいい。地表に降りたらまずはこのポイントへ向かってくれ」
そうサトウがいうとプラグ内へデータが転送され、ホロスクリーンがカガの前に現れた。
「ここにアダムの反応と思われるものが見られる。ただ青の反応が多すぎて、本当にアダムなのかはわからない。だからあんたの肉眼で確かめてほしい」
カガは地図を見ると、たしかにクレーターらしきものが見えていた。ただ惑星が放つ独自の電波が、航空写真すらも歪めていたので、それが本当にクレーターなのかどうなのかも定かではなかった。
「了解しました。降下地点の近くなので、調査します」
とカガがいうと、間髪を入れず、
「あと最後に一つ」
と、サトウは力を入れた声で言った。
なにか大事な任務が追加されるのかと、さすがのカガも身構えた。
「生きて帰って来るんだよ」
そう言うとサトウは恥ずかしいのが、通信を一方的に切ってしまった。
思わずハニカンだカガは、静かに軽くLCLの中でうなずくのだった。
エントリープラグがコード4Bに挿入され、降下準備が整い、自動落下ポイントへEV0045が近づくと、格納庫の下方が開き、自由落下のタイミングが来ると、アームの拘束が解除され、コード4Bは惑星めがけ、落下していった。
第5話へ続く