2022年7月31日日曜日

新世紀エヴァンゲリオン『〜神の座を求めて〜』第5話二次創作

 5


 ブリーフィングルームには、各界のプロフェッショナルが集められていた。やぎ座探索にそれだけ国連は力を入れていたのである。

 LCLからでたばかりの面々の顔は、まだ目覚めたばかりといった風で、頭が回ってるとは思えなかった。

 円卓の一番奥に腰掛けていたジェームズ司令官が立ち上がり、円卓の中央に現れた永存を見ながら話し始めた。

「ここはアダムが知性体を反映させた惑星だと思われる。現に使徒と思われる巨大生物が大量に確認されている。そこで、現地に着陸して、調査を行いたいと思っている」

 これにはまだ回らない頭でも、危険なのはすぐにわかった。全員がそれぞれに講義の声を上げる。

 司令官にはそれも想定していた反応であった。

「なにも諸君たちをいきなり使徒のど真ん中へ放りこもうと言うのではない。先なカガ君に調査してもらいたいと思っている」

 司令官の後ろに立つ、あどけなさの残る少年に視線が一斉に向いた。EVの恩恵を受け、人より優れた能力と不老の肉体を持っているとはいえ、不死身ではない。パイロットを失う危険性があった。

「綾波シリーズを降下させるのはだめなのか」

 地質学者のベリー・リッツァが、ドイツ人らしい鋭い視線を司令官に向ける。

「残念ながら綾波シリーズでは、いざというときに対応ができない。そこまで育成できている綾波レイはいないんだよ」

 司令官が言うと、続けざまにカガが小さな声で話を自分のことに持っていった。

「いざとなればEVシリーズを遠隔操作して逃げることもできます。皆さんを宇宙の彼方に放り出しはしません」

 と、冗談のつもりで行ったのだが、笑っていない顔に、ますます科学者たちは不安げになるのだった。

 それからは数時間のブリーフィングが続き、結局、最初の案が採用されることになり、カガは格納庫のコード4Bに挿入されるエントリープラグの中で、シンクロ率の調整をしていた。

「もしもし、聞こえるかい」

 そこへ女性の潰れたような声が聞こえてきた。ミコ・サトウの声である。

「通信状態は良好です。どうかしましたか?」

 無機質なカガの様子はいつもと変わらず、これから使徒が溢れた惑星へ降下する人の心理とは到底思えなかった。

「あんたには緊張ってもんがないのか。まあいい。地表に降りたらまずはこのポイントへ向かってくれ」

 そうサトウがいうとプラグ内へデータが転送され、ホロスクリーンがカガの前に現れた。

「ここにアダムの反応と思われるものが見られる。ただ青の反応が多すぎて、本当にアダムなのかはわからない。だからあんたの肉眼で確かめてほしい」

 カガは地図を見ると、たしかにクレーターらしきものが見えていた。ただ惑星が放つ独自の電波が、航空写真すらも歪めていたので、それが本当にクレーターなのかどうなのかも定かではなかった。

「了解しました。降下地点の近くなので、調査します」

 とカガがいうと、間髪を入れず、

「あと最後に一つ」

 と、サトウは力を入れた声で言った。

 なにか大事な任務が追加されるのかと、さすがのカガも身構えた。

「生きて帰って来るんだよ」

 そう言うとサトウは恥ずかしいのが、通信を一方的に切ってしまった。

 思わずハニカンだカガは、静かに軽くLCLの中でうなずくのだった。

 エントリープラグがコード4Bに挿入され、降下準備が整い、自動落下ポイントへEV0045が近づくと、格納庫の下方が開き、自由落下のタイミングが来ると、アームの拘束が解除され、コード4Bは惑星めがけ、落下していった。

第5話へ続く





2020年2月20日木曜日

『新世紀エヴァンゲリオン~神の座を求めて~』第4話 二次創作

「新世紀エヴァンゲリオン アダム」の画像検索結果

4話

 LCLの中で目覚めると、カプセルからちょうどLCLが抜かれている最中だった。

 ジェームズ・ブライ司令官は白髪が混じった髭をはやした口周りを大きく開き、LCLを吐き出し、咳き込んだ。

 肉体が液体以外で酸素供給するのが久しぶりなので、拒否反応なのか咳き込みが収まらなかった。

 曲線でできた強化ガラスカプセルの蓋が左右に開き、白い防護服に包まれた筋肉質の身体が前に倒れ込む。それを抑える人物がいた。

 肺に空気を吸い込み濡れた瞼を開くと、EV0045型のパイロット、カガが立っていた。

 ジェームズ司令官は搭乗者がここにいるということは、目的地に到着したのだ、と考え咳が落ち着いてから、自力で立ち上がり、大きく胸を開いて息を吸うと、周囲を見回した。

 縦型に設置されたLCL冬眠カプセルが通路の左右にズラリと並んでいる。そこから次々と人が吐き出され、咳き込んでいた。

 医療スタッフがその人達の健康チェックと介抱のために、部屋に駆け込んでくる。

 皆、水色の短い髪の毛と赤い瞳が共通した、同じ顔をしている。綾波レイである。

 彼女はEV0045型の中で培養、クローン化され、量産されていた。その役割は主に2つ。乗員の補佐とEVコード4のパイロットである。

 そう、カガが排出していたコード4には全部、綾波レイが搭乗していた。ダミープラグが挿入されていたのである。

「やぎ座に到着か」

 この『やぎ座作戦』の指揮権を国連から委任されたジェームズ司令官がカガに聞くと、アジア人の小さい顔を軽く首を横に振った。

 司令官が訝しい顔をする。

 その後、司令官は綾波レイたちの医療スタッフによって健康状態に以上がないことをチェックされると、EV内部の司令室に入った。

 司令室には複数の椅子と計器類、中央に作戦データを映し出すホログラム装置が置かれていた。さながら戦艦の艦橋に似ていた。

 内部はガス状LCLが充満し、艦橋上下左右前後はすべてスクリーンになるように設計されていた。

「君がプラグアウトするということは、EV自体が機能停止することになる。なぜ、目的地でもないのに停止したのかね」

 すっかり感想した身体に防護服を装着したまま、カガに司令室で質問を投げかける。

「パターン青、使徒が出現しました。マニュアル通り、戦闘を行い、使徒がどこから現れたのかを推測、探知した結果があれです」

 カガが指差した先には、惑星が1つあった。

 ジェームズはそれを見た瞬間、言葉を失った。

 40を過ぎたばかりの彼ばかりではない。若いクルーたち、専門家たちも司令室に入ってくると、カガが示す指先に映し出される惑星の光景に、皆、言葉を失っていた。

「ち、地球」

 天文学者のミコ・サトウが口走った。年齢は50代も後半で長い髪はパーマがかっている。頭頂部は少し白髪交じりで、口元にもシワが出始めていた。防護スーツの上から白衣を着ている。

「マニュアル通り、知的生命体が確認できたら覚醒プロセスを実行するようにと。だから起こしたんです」

「あそこに知的生命体が!」

 カガと同じくらいの年齢のオペレーター、クター・フェリンがいう。彼女もカガと同じアジア圏の産まれで、髪の毛を緑色に染めていた。それに合わせてか、緑色の防護服を着用している。

「確認したのか」

 ジェームズ司令官が聞くと、カガは計器類に近づき、タッチパネルを操作した。

 するとホログラムが展開し、地球に酷似した惑星が現れ、そこに無数の青いマーカーが表示された。

「これがすべて生命体反応です。パターンは青」

 司令室にざわめきが走る。

「これが全部使徒だっていうの」

 ミコは白衣のポケットに両腕をつっこみ、訝しく惑星を見つめた。

「そしてこれが惑星内の映像です。コード4Bを降下させ撮影しました」

 ホログラムがホロスクリーンに変わり、大気圏を突破して雲を抜け、地上付近に着陸したのが映像には映ってていた。

 地上には破壊された鉄筋コンクリートの建物やアスファルトの道路が見えていた。しかもそこを無数の異形の巨人たちが歩き、飛行していたのである。

 その惑星は使徒の住処と表現すべき惑星だったのだ。

「神の種、アダムによる繁栄ね。でもこの破壊された建物は何なのかしら」

 ミコが映像の不思議な点をつく。

 ジェームズ司令官は計器類の前に立つと、タッチパネルを操作た。

「こちら司令官のジェームズだ。主要研究チームはブリーフィングルームに集合してくれ」

 このEV0045型に搭乗している乗組員の目的は唯一つ、神を証明すること。

第5話へ続く
 

2020年2月8日土曜日

『新世紀エヴァンゲリオン~神の座を求めて~』第3話 二次創作

第3話

『パターン青』の表示にカガは一瞬、思考が停止した。使徒が出現した際のシュミレーションは何度もEVの搭乗者になってから、訓練として行ってきた。

 しかし実際に使徒が現れることは人類の歴史でサードインパクト以降はなく、アダムが消えてからは、創造されることもないと考えられていた。

 だからカガもどういうことなのか、最初は戸惑った。

 けれど使徒は容赦してくれないし、時間を与えてもくれなかった。全面スクリーンの無数のマーカーは高速でEV0045型にせまりつつある。

 亜光速での戦闘マニュアルは存在せず、カガは自ら考えるしかなかった。と言っても選択肢はたった1つ。戦うしかない。明らかに敵は攻撃態勢で向かってきている。

 ホロスクリーンを指で操作し、艦載機の発進準備をする。

 その最中、無数の光がマーカーと重なったところできらめき、全長5キロのEVが大きく揺れた。

 ATフィールドでEV自体に損傷はないが、警告表示がホログラムで彼の前に現れた。敵の攻撃は予想以上にATフィールドを消耗したらしい。

 次は防げない。心の中でつぶやいたカガは、艦載機の発進をすすめる。

 空母型EV0045にはその腹部に500万体以上のEVコード4を格納しており、腹部の発射扉が開くと、それは蜘蛛の子が散るように、宇宙へ飛び去った。

 丸と筒を組み合わせたようなその形状は、ネルフがヴィレと対立していた時代に開発したEV量産機である。

 敵を自動認識してアームとATフィールドを使い自立して攻撃を行う。ネルフの忌むべき遺産が役立つ瞬間であった。

 コード4の群れはカガの正面の無数のマーカーめがけ飛行する。敵は赤、味方は青のマーカーでスクリーンには示されていた。

 使徒との接触を果たした宙域では、激しい戦闘が繰り広げられているのか、光が無数に見えた。

 と思った矢先には亜光速の世界で戦闘で減速した使徒とコード4は消えていく。

 カガはきっともう遭遇することはできないことを察した。

 亜光速移動しながら戦えるコード4と使徒は、カガの周囲で戦闘を続けていた。

 するとカガの眼にはっきり使徒の姿が確認できた。それは結晶体が流動しまた結晶に戻る、という動きを繰り返し、成分が陽電子の光を放射する形状をしていた。

「これが使徒!」

 カガは低い声で呟くと、EV0045の速度をさらに上げた。シンクロ率を上昇させ、ATフィールドも拡大していく。

 そして鮮やかに光るATフィールドが球状に広がった時、使徒は尽く爆発して宇宙に消えていった。

 カガは生き残ったコード4を格納しつつ、周囲を警戒した。

 使徒がどこから現れたのかも同時に調べた。

 ホロスクリーンを指先で操作していると、進行方向にある恒星系にパターンのシグナルが出た。

 まさかここが信号の発信元?

 カガはすぐにLCL冷凍睡眠覚醒プロセスを開始した。恒星系へ向かい、その惑星に接近することを決めたのである。

第4話へ続く




2020年1月29日水曜日

『新世紀エヴァンゲリオン~神の座を求めて~』第2話 二次創作

「宇宙空間 エヴァンゲリオン」の画像検索結果

第2話

 月面出発50日目のこの日も、亜光速航法に問題はなく、EV0045型はやぎ座宙域へ向け順調に航行していた。

 全長5キロのEVを動かすにしては、通常のエントリープラグは通常のEVと変わりなく、その内部でLCLに浮かび、プラグスーツを着ているカガは定時連絡をネルフ本部へ発進した。

 地球から返信があるわけではない。ただ任務遂行中は毎日、定期連絡を義務付けられていた。

 カガはアジア圏出身の少年の姿をしている。髪の毛は黒く、瞳も黒い。だが年齢はすでに80歳を過ぎていた。

 まだ彼が十代の頃、EV搭乗者に憧れネルフの選抜試験に応募した。彼が少年だった頃、すでに地球に国家はなく、赤い大地と海の中、国連が世界の人々を管理していた。しかし1つの組織が管理できるほど地球人類の人口はすくなくなく、アジアの草原で産まれた彼は、両親もなくスラム街で幼少期を過ごし、盗みを働いて生活していた。

 だから逃げ出したかった。貧乏から。

 ネルフは搭乗者選抜を無料で行う。世界中、十代の男女を公募していたのだ。

 カガのように貧乏から脱したい者もいれば、親に無理やりネルフへ送り込まれてくる子供もいた。境遇は様々だがEVの搭乗者はシンクロ率さえ高ければ、器の魂になれる。

 カガも特別になりたかった。とにかく特別に。

 そして特別になった。こうしてLCLに身体を預けながら、後ろに過ぎていく宇宙空間を見ながら、彼は特別になった実感を、毎日、身体で感じていた。

 僕はこれでいい、これが僕の特別。僕は居場所はここなんだ。

 と、心の中でカガはつぶやいた。

 その時、全面スクリーンに無数の警報ランプが現れ、プラグの中が真っ赤な警告の色に染まった。ホロスクリーンが現出し、警報がなんであるのかをEVに内蔵された第10世代型カスペリオールが分析する。

《分析結果:パターン青》

 これを見た瞬間、カガの眼は見開かれた。

 使徒。そんな馬鹿な。使徒が最後に現れたのは2015年だけのはず。それから人類は使徒を確認していない。

 それが亜光速航行中のこんな人類生存領域を離れた宇宙空間で、反応するなど。

 カガは訝しく思いながら、ホロスクリーンに指先を触れ、さらなる分析を進めた。

第3話へ続く

2020年1月21日火曜日

『新世紀エヴァンゲリオン〜神の座を求め』第1話 二次創作

時に西暦3000年代

月、火星、衛生エウロパを中心とする太陽系移民を開始した人類は、各植民地でEVを活用していた。

器であるEVはシンクロ率の高い搭乗者、魂、を入れることで動き、様々な場面で運用されていた。

火星に本部を移したNASAが捉えた謎の信号を追って、赤城重工と国連直属で再編成されたネルフを主体にやぎ座への調査計画『やぎ座作戦』が月面の第35新東京市で進んでいた。

ネルフとの歴史的確執のあるヴィレは再三、抗議文書を国連、ネルフに送ったものの、計画は進み、EV0045型は100名の搭乗員とパイロット『タクミ・カガ』の手で打ち上げられ、対消滅機関を使用した亜光速航行でやぎ座に向かう。

これが人類の種『リリス』を45億年前に地球へ撒いた『神』の招きなのか、はたまた同じように『ファーストインパクト』で宇宙に誕生した知的生命体からの侵略なのか。

人類は宇宙へと旅立つ。エヴァンゲリオンの体内に抱かれて。


第1話

第1話

 時に西暦3477年。

 月面都市第34新東京市では、赤城重工開発の新型EVが外宇宙へ向け、発進する準備が着実に進行していた。

 456世代型S2機関を搭載したこのEV0045型は、人形というこれまでの概念を排除し、遠距離移動と内部での複数人が生活するという長距離移動をコンセプトに、対消滅エンジンをブースターに使用した、亜光速航行を可能とする機体である。

 2000年代に開発された決戦兵器としての役割を終え、今はEV型は国連軍のみならず、人が植民地化した月、火星、衛生エウロパなど、様々な場所で運用されていた。

 魂の器であるEVは、その登場者とのシンクロ率試験によって選別され、シンクロ率が最も高い搭乗者が選ばれる。

 今回の最新型EVは、複数の搭乗者が乗り込む実験機であり、シンクロ率がそれぞれに高い搭乗者を選別し、長期計画として進行していた。

 国連主導でもありながら、2000年代に悪名を世界に轟かせ、今では再編され、国連の直属組織であるネルフが計画には参加し、実質現場は赤城重工とネルフが動かしている状況にあった。

 これに対して地球側のヴィレから再三に渡り計画中止の要請があった。

 ネルフとヴィレの対立、抗争の歴史を知らないものはいない。今では子供の教科書でも、その歴史が語られるほど、世界史、宇宙史において、大きく刻まれる2大組織である。

 しかし今のところ水面下では争いが激化しているものの、独立組織であるヴィレが国連直属のネルフへ計画中止を通告しても、上層組織の国連が計画を断念しない限り、この外宇宙への探求は、停止することはなかった。

 そもそも今回の計画の主目的は『神の存在の証明』にあり、ヴィレ以外にも危険視する声は、人類の植民地各地から上がっていた。

 巨額の投資をしてまで、外宇宙へ出て、わざわざ『神』を探す必要があるのだろうか?

 人類の種である『リリス』。2000年代に現れた『使徒』と呼称される巨大生命体の種である『アダム』そして、これら種の暴走を封印することのできる謎の槍『ロンギヌス』。現在でも研究は続けられているが、これらがどこからやってきたのか、なぜ、生命体を誕生させられるのか。まるで研究は進んでいない。千年以上たった今の科学技術ですら、人類の種の原理を人間は解き明かせないでいた。

 種がそれぞれ地球、月に現れたのが年代測定で45億年前と推測される。つまり地球誕生のその時から種はそこにあった。

 つまり人を創りし種を宇宙にばらまいた『ファーストインパクト』を引き起こした張本人たちが宇宙のどこかに存在する。

 それを探し求めるのが本計画『やぎ座作戦』の大まかな概要であった。

 なぜやぎ座なのか?

 それは10年前、火星に本部をおいたNASAが謎の信号を捉えたからである。なんらかの知的生命体がやぎ座方面に存在するという明確な証拠である。それを証明するため、本作戦は実行されることになっていた。

 だがそれが『ファーストインパクト』を起こした『神』なのかは分からない。理論物理学界では「仮に知的生命体が生命の源であるアダムとリリス、それらを抑制するロンギヌスの槍を地球に送った、あるいは散布したとなれば、それは宇宙規模でなされている可能性があり、人類、使徒以外にも何らかの知的生命体が宇宙各地で文明を築いている可能性はある。しかしながらそれが必ずしも友好的とは限らない」という意見が大きく、火星NASA本部が捉えた信号がそうした知的生命体である可能性もある。

 それでも国連はネルフと赤城重工に今回の計画を託した。

 そして今宵、EV0045型が第35新東京市を出発する。

 全長5キロにも及ぶ巨大EV内部には100名もの調査員がLCL冷凍睡眠状態で待機している。主パイロットの「タクミ・カガ」はトラックボールシステムに手を置き、その時を待っていた。

 オペレーターがカウントダウンを開始すると、トラックボールを動かし、対消滅機関を指導する。LCL内にホログラムのメーターが展開し、次第にエネルギーが上昇する。

 外部では4つのブースターから煙と激しい炎が噴射する。

 カウントダウンが終了すると、タクミはブースターを一気に臨界点まで上昇させた。

 4キロの巨体はレールの上を一直線に加速して進むと、途中から上部へ湾曲するレールに沿って縦方向へ向かい、重力が地球程もない月面をすんなり離れると、一気に亜光速へと速度を上げる。

 一度、シンクロ率を上昇させた搭乗者にはEVの呪いともいうべき、人体成長停止効果が永久的に及ぶ。つまりタクミ・カガもEVの呪縛を受けた1人であり、亜光速による「ウラシマ効果」を受けても、どれだけ時間が経過したところで、老化しない。だからメイン搭乗者としてEV0045を任せられたのである。

 これから長い旅が始まる。有人による宇宙探索がこの夜、幕を上げたのであった。

第2話へつづく