
4話
LCLの中で目覚めると、カプセルからちょうどLCLが抜かれている最中だった。
ジェームズ・ブライ司令官は白髪が混じった髭をはやした口周りを大きく開き、LCLを吐き出し、咳き込んだ。
肉体が液体以外で酸素供給するのが久しぶりなので、拒否反応なのか咳き込みが収まらなかった。
曲線でできた強化ガラスカプセルの蓋が左右に開き、白い防護服に包まれた筋肉質の身体が前に倒れ込む。それを抑える人物がいた。
肺に空気を吸い込み濡れた瞼を開くと、EV0045型のパイロット、カガが立っていた。
ジェームズ司令官は搭乗者がここにいるということは、目的地に到着したのだ、と考え咳が落ち着いてから、自力で立ち上がり、大きく胸を開いて息を吸うと、周囲を見回した。
縦型に設置されたLCL冬眠カプセルが通路の左右にズラリと並んでいる。そこから次々と人が吐き出され、咳き込んでいた。
医療スタッフがその人達の健康チェックと介抱のために、部屋に駆け込んでくる。
皆、水色の短い髪の毛と赤い瞳が共通した、同じ顔をしている。綾波レイである。
彼女はEV0045型の中で培養、クローン化され、量産されていた。その役割は主に2つ。乗員の補佐とEVコード4のパイロットである。
そう、カガが排出していたコード4には全部、綾波レイが搭乗していた。ダミープラグが挿入されていたのである。
「やぎ座に到着か」
この『やぎ座作戦』の指揮権を国連から委任されたジェームズ司令官がカガに聞くと、アジア人の小さい顔を軽く首を横に振った。
司令官が訝しい顔をする。
その後、司令官は綾波レイたちの医療スタッフによって健康状態に以上がないことをチェックされると、EV内部の司令室に入った。
司令室には複数の椅子と計器類、中央に作戦データを映し出すホログラム装置が置かれていた。さながら戦艦の艦橋に似ていた。
内部はガス状LCLが充満し、艦橋上下左右前後はすべてスクリーンになるように設計されていた。
「君がプラグアウトするということは、EV自体が機能停止することになる。なぜ、目的地でもないのに停止したのかね」
すっかり感想した身体に防護服を装着したまま、カガに司令室で質問を投げかける。
「パターン青、使徒が出現しました。マニュアル通り、戦闘を行い、使徒がどこから現れたのかを推測、探知した結果があれです」
カガが指差した先には、惑星が1つあった。
ジェームズはそれを見た瞬間、言葉を失った。
40を過ぎたばかりの彼ばかりではない。若いクルーたち、専門家たちも司令室に入ってくると、カガが示す指先に映し出される惑星の光景に、皆、言葉を失っていた。
「ち、地球」
天文学者のミコ・サトウが口走った。年齢は50代も後半で長い髪はパーマがかっている。頭頂部は少し白髪交じりで、口元にもシワが出始めていた。防護スーツの上から白衣を着ている。
「マニュアル通り、知的生命体が確認できたら覚醒プロセスを実行するようにと。だから起こしたんです」
「あそこに知的生命体が!」
カガと同じくらいの年齢のオペレーター、クター・フェリンがいう。彼女もカガと同じアジア圏の産まれで、髪の毛を緑色に染めていた。それに合わせてか、緑色の防護服を着用している。
「確認したのか」
ジェームズ司令官が聞くと、カガは計器類に近づき、タッチパネルを操作した。
するとホログラムが展開し、地球に酷似した惑星が現れ、そこに無数の青いマーカーが表示された。
「これがすべて生命体反応です。パターンは青」
司令室にざわめきが走る。
「これが全部使徒だっていうの」
ミコは白衣のポケットに両腕をつっこみ、訝しく惑星を見つめた。
「そしてこれが惑星内の映像です。コード4Bを降下させ撮影しました」
ホログラムがホロスクリーンに変わり、大気圏を突破して雲を抜け、地上付近に着陸したのが映像には映ってていた。
地上には破壊された鉄筋コンクリートの建物やアスファルトの道路が見えていた。しかもそこを無数の異形の巨人たちが歩き、飛行していたのである。
その惑星は使徒の住処と表現すべき惑星だったのだ。
「神の種、アダムによる繁栄ね。でもこの破壊された建物は何なのかしら」
ミコが映像の不思議な点をつく。
ジェームズ司令官は計器類の前に立つと、タッチパネルを操作た。
「こちら司令官のジェームズだ。主要研究チームはブリーフィングルームに集合してくれ」
このEV0045型に搭乗している乗組員の目的は唯一つ、神を証明すること。
第5話へ続く